時々思い出す話になりつつありますが、(おいおい)
日本のアメフトは冬が本番で、
春先から試合や大会があるのは
あくまでも地区大会だったり交流戦。
アメフト連盟管轄のリーグ内の順位にかかわる、
星取りゲームじゃあありません。
そこのところは高校生も大学生も同んなじで、
高校選手権での春大会は
あくまでも関東・関西の頂上を目指すの止まりですし、
大学生の方でも、
各自のチームが自由参加している
トーナメント戦だったりフェスティバルだったりするので、
ともすれば
川崎スタジアムまで関西のチームをお呼びしてのゲームもあるくらい。
『だがまあ、
公式にはまだ当たれない相手と
がっつりフルタイムやれるってのはいい経験になるからな。』
余程に準備が間に合ってないならともかく、
順位に関係ないってだけで 参加しないとするチームはまずなかろう。
お呼びがかかればめっけもんだし、
こっちから参加しますと申し出てるものだというのも、
“判っけどよっ。”
桜を泣かせた大荒れの春が、
いきなりの急転直下で、倒れそうなほど夏日のGWを迎えており。
スミレ色だった空からは、
人を照り焼きにする気かと思うほどの強烈な陽射しが降りそそぐ。
女子高生のみならず、
今時は子供へも紫外線の悪影響が呼びかけられていて。
おしゃれグッズじゃなくのサングラスとか、
どこのペドウィンですかという
襟足にまで幌(ほろ)のついた帽子とか、
幼稚園でも採用している所があるくらいなので。
「せんせえ、2組の蛭魔くんがこあいです。」
「え? あ…ああ、しょうがないの。
蛭魔くんは瞳の色が薄いからね。」
UV加工済みの闇色のサングラスを、その色白なお顔に掛け、
その割に、
色白な腕なぞは腕まくりして出したまんまという
微妙に矛盾した恰好になっての、腕組み&仁王立ち。
それでなくとも、
彼を怒らせると上級生どころか中学生さえ
余裕で泣かすと言われている鬼軍曹さんなので。
ガッコに持ってきてはいけないグッズなのに…というより、
そんなもん掛けたらもっと怖いじゃないかという哀訴、
何とか せんせえへと持ってく子が出たようだったが。
注意してくださいというムキの進言だというに、
そういう事情があるのでと、とっくに許可は頂いてたらしい周到さよ。
“こ〜んな陽気ん中に出づっぱりだぞ。”
サングラスでも掛けんことには、
明日はドライアイで眸が開かなくなるっての…なんて。
ぶつくさとお念仏のような不平をその胸中にて零しておいでの、
金髪ピリ辛坊やだったりするのだが、
“そいでも、ちゃんとサボらずに来たんだもんね。”
お付き合いの長さから
色々な“兼ね合い”を把握しておいでらしきセナくんが、
そこんとこは偉いよねぇと、
こちらさんもやや複雑そうな苦笑を、
そのベビーフェイスへ浮かべておいで。
昨日の土曜日から、世間様はGWで。
真ん中の2日を有給で埋めて
たっぷりと海外にお出掛けなんて話も聞く中。
こちらの小学校では、例年の行事として、
毎年、GWの頭に“春の小運動会”なるものが催されておいで。
秋口の本格的なのに比べれば
トラック競技オンリーの“陸上競技会”みたいなものだけれど。
例えば、土曜はまだ休みじゃあないお勤めのお宅もあるだろに、
しかも共働きだったりする場合、
保護者なしでのお留守番をさせることと成りかねぬ。
そういう“事情のムラ”を均すため、
身体検査だの懇親レクリエーションだのを
わざわざGWに持って来る学校も少なくはなくて。
ご家庭の事情で休むもやむなき、
でもでも、そうでない子はガッコに出ておいでとする方針は
“判らなくもねぇけどよ。”
緋色の瑞々しい口許を、ぐぐっとへの字にひん曲げて。
四年生の観覧席の後方、
ちょっとばかり日陰になってるところに
袖は通さぬジャージを細い肩に羽織り、
胸高に腕を組んでの仁王立ちしている、
ふわふかな金髪と線の細い面差し、
すんなりしなやかな肢体が、
ちょっとしたCMに出てそうなレベルの美麗さを
周囲へ キラチカ振り撒いておいでの美々しい坊や。
“運動会くらいで駄々こねるガキじゃねぇけどさ。”
そう、
そこまでお子様じゃないとの自負の下、
―― 何も賊大の試合の日と重ならなくてもいいじゃんかよ、と
そこんところが微妙にムカついておいでならしい子悪魔様なため。
今日のように父兄が観覧しておいでという舞台では、
当社比38%ほどネコかぶり率が上がるはずが、
見てそのまま“不機嫌”なのが判る不調っぷりであり。
「ヒル魔くん、どっか具合悪いのかなぁ。」
「だよねぇ。」
だって徒競走もハードル走も、
いつもなら セナくんとトップ取り合うくらい速いのに。
今日は何でか 一等賞取り損ねてばっかだし…と。
あくまでも“案じて”のお言葉ながら、
悪口だと思われては困るからだろ、
遠巻きにしてから こそりと囁き合ってるお友達も幾たりか。
それがため、こちらさんに近寄る格好になってしまった父兄席にて、
“…具合じゃなくてご機嫌が悪いんだろな、ありゃあ。”
母上を手伝い、お父さんも頑張りましたのお弁当持参。
パッと見ですぐに誰の父上かがモロ判りな、
金髪痩躯の若々しい風貌をした男性が、
ソフト○ンクのお父さん犬のイラスト入りレジャーシートの上で、
細い顎を指先で支えつつ、思案顔を見せておいで。
“一種の交流戦、エキジビションみたいな試合なんて、
別に観なくともいいだろうに。”
そりゃあまあ、
あのおませさんにすりゃ、
こ〜んなお遊戯の延長みたいな催しよりは、
大学生がガチンコで当たり合う
アメフト観戦のほうが…って気持ちは判るがなと。
こちらさんもまた、
我が子の心情はようよう判ると苦笑が絶えないようであり。
…とはいえ、
だからって適当な事情を捻り出してまで
学校をサボらせてはやらない辺りが、
実直なポリシーからかどうかは
実のところ、謎じゃああるお父様だったりするのだが。(笑)
“何ですか、そのややこしい言い回し。”
だってさ…。
あ、ほらほらvv
【 次は四年生による借り物競走です。
コースに置かれたカードに書いてあるものを
捜し出しての必ず持ってゴールするのが条件です。
観客席にお越しのご父兄の皆様は、
よろしければ どうか快くご協力くださいませ。】
アトラクションぽい競技は少なめとしながらも、
さほどに準備の要らないものだからか、
こういう競走はそのまま取り入れられていて。
5、6人で1組とされた生徒達が順番に、
スタート地点へ並んでは、
それほど厳密なチェックもされぬまま、
よーい・ドンっと飛び出して行く様なのは
他の競技とさして変わらないものの、
「1リットルのペットボトル、持って来た人いませんか?」
「麦茶のでよければあるよ。」
「メガネケース貸してもらえませんか?」
「袋のでもいいかねぇ?」
あまりに突飛なものや、壊してしまいそうなものは避け、
また、生徒も持っていそうなものではダメ…と、
先生がたも頭をひねっただろう物品を、
生徒らが客席へ借りにゆき。
ほれ持っておゆきと差し出す大人たちの声も交じって、
場内はほのぼのした空気に沸いている。
そんなホットな雰囲気の中にあって、
別に嫌がらせをしたいワケじゃあないのだが、
ついつい冷め切っておりますというお顔で
スタートラインへ向かったところが、
「―から、」
「いいのかな、あれ。」
「駐車場は……」
何だか周辺のざわつきの色合いが変わったような。
あーやだやだ、なんでこうも俺って敏感?
早く昼時になんないかな、
午後はリレー各種だけだから とっとと終わるもんな…などなどと。
腹の底でぶつぶつを転がしつつ、
何とはなしにお顔を上げたその先には、
…………………はい?
父兄の観覧席のちょみっと後方。
エンジン音はしなかったから、
恐らくは通用門から此処まで手で押して来たのだろう。
そんな愛車のゼファーに、今はまたがって。
見覚えのあり過ぎる誰かさんが、
にやにや笑って
こっちを真っ直ぐ見てござるじゃあありませんか。
ワックスで整えられた黒髪は、
きちんと撫でつけられてのきりりと冴え。
大人びて精悍な面差しには強かそうな笑み。
ライダースジャケットを羽織った肢体は、
ちょいと長いめの腕といい脚といい、
厚みのある胸板や頼もしい肩といい、
いかついオートバイに微塵も引けを取らない雄々しさを醸しており。
「………な。」
何でまた今時分に此処にいんだよ、あの野郎。
試合じゃねぇのか? 今日ってばよ。
そりゃあ午前の部じゃああったけど、
どんな展開になろうと、
ゲームセットまで2時間以上はかかるだろうし。
○×スタジアムから此処までって、
バイク飛ばしても 1時間はかかるしよ。
だってのに…………。
朝からこっちの“ぶつくさ”が、微妙に毛色が変わったものの、
胸中にてぶつぶつ言ってるには違いない。
集中してないそのまんま、
スタートの合図、鋭いホイッスルに背を叩かれて、
ああとぼんやり駆け出した。
コースの途中には、玉入れに使うお手玉が重し代わりに乗っかったカード。
うっかりと見落としかかって
隣のコースの子の動作が視野に入っての、あっと我に返ったものの、
「…………っ。」
手を伸ばして拾い上げたカードには、
まんがチックなイラストがあっただけ。
一見するとカマキリのお顔にも似ている爬虫類の……
「だからよ、今朝早くにいきなり電話連絡があってだな。」
連盟の監督下にあるものではなくたって試合は試合だ、
厳正なルールに則り催されるそれであり、
決して誰か個人の思惑にあっさりと左右されるような
軽いものじゃあない…はずなのに。
「別のスタジアムが急に使えなくなったって。」
細かい詳細は本当ならば言えないが…としながらも、
どうやら何かを場内で探せとかいう、
深読みすればするほど物騒な脅迫電話があったらしくって。
場内を捜索するだけでも1日はかかるから、
試合なんて到底無理。
中止としてもいいくらいだが、
事情を明かすとパニックになりかねないからと、
そっちのスケジュールがどんとこっちにねじ込まれてよ。
「俺らのゲームが一番、観客数が少ないだろからって、
1時間早めに開始ってことになっちまって。」
失敬だよな。そいで、スタンドガラガラのままで始まってよ。
本来の時間に来た客は揃って何で何でって顔してたほどなのによと。
不平を零している割に顔はにこやかなままの、
元カメレオンズの、今はフリルリザードの主将殿。
借り物カードを手に、坊やが一直線に駆けて来たの、
慌ててバイクから降りると受け止めて。
どっちが“持って”というカッコなのやら、
肩の上へと担ぎ上げた妖一くんごとゴールへ急いだ珍プレイをご披露してから、
何でまたこんな間合いで、こんな場へ姿を見せたかを説明しておいで。
「そりゃあおっかない。」
「物騒なことだよねぇ。」
妖一くんの父上や、
そちらさんは今日は試合がなかったらしい王城の進と桜庭などが、
とんでもないことがあったんだねぇなんて、
感嘆というか仰天というかしていたけれど。
“……一体どいつが白々しいこと企みやがったか。”
こうまで間のいいことがそうそう偶然で起きるはずがないと、
そこは最もシビアに判断出来ちゃう子悪魔様、
大人たちの白々しい様子へ、
やっとのこと、
動揺しかかってたところへのクールダウンが効いて来、
それと同時に、子供だましなことを持ち出しやがってよと、
やりすぎな気遣いされちゃったことへ、
微妙にムカッと来かかってたものの。
“…………………ま・いっか。”
間に合ってよかったと、
一番何も知らないことじゃあセナと張るだろう葉柱のお兄さんが、
にこにこしているのが何とも他愛なかったものだから。
ぴとりと擦り寄った硬い肢体の感触とか、
ガソリンの匂いの陰にいつもの男臭い香りがあったのとか。
朝からずっと不機嫌だったの、全部吹っ飛ばしたほど、
嬉しい要素がいっぱい間近にやって来たのだから。
誤魔化されてやってもいいかなと、
それ以上の駄々をこねるのはよした、子悪魔様だったようで。
頭の上には瑞々しい初夏の快晴。
こいのぼりが楽しげに、下界を見下ろし躍ってござった。
〜Fine〜 12.04.29.
*確か○川次郎さんの『探偵物語』にも出てこなかったかという、
爆発物を仕掛けたという大嘘告知。
(そっちは離陸寸前の飛行機を
待てと引き止める非常識作戦だったですが、)
どんな事情があろうと、嘘であろうと、
実際にやらかせば威力業務妨害という罪になりますので、
絶対真似しちゃあいけません。
その場所が使えなくなったことで発生した払戻金とか損害とか、
全額を賠償しろといわれても文句言えませんよ?
ちなみに本作では、もしかしたら
“茶房もののふ”の皆さんが
特殊な非常訓練を買って出たとかどうとかいう
事情があったのかもしれません。
そんだけの貸しは
山ほど当局にツケてあるからとか言って。(おっかねぇ)
*随分と間が空いた更新になってすいません。
風邪がぶり返して臥せってました。
歳は取りたくないもんですねぇ。
急な真夏日にも動じずに、
お外遊びをしたがる小姫ちゃんの元気が本当にうらやましい。
子供ってすごいなぁ……。
めーるふぉーむvv

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